AD Newsアンチ・ドーピング通信

JSAA-DP-2023-001 仲裁解説

更新日:2024年6月13日

4月9日に公開されたドーピングに関する仲裁の内容について、解説します。
詳細は、ぜひ原本をご確認ください。

どんな違反だったのか?

違反者は、2022年5月19日に実施された競技会外ドーピング検査にて禁止物質である「トレンボロン」の代謝物が検出されました。
このことはアンチ・ドーピング規程2.1項、2.2項に違反していることから、日本アンチ・ドーピング規律パネルは、採取日である2022年5月19日から暫定資格停止期間の開始日である6月21日までの成績の失効、2022年5月21日より2年間の資格停止とすることを決定しました。

ですが、JADAはこの決定を不服として日本スポーツ仲裁機構(JSAA)に申し立てを行ったのです。

JADAが争点とした内容①

【意図的でなかったことの証明はできていない】
禁止物質の出所をすることなく、意図的でなかったことを立証できる可能性は極めて低いとされている中で、違反者は禁止物質がどのように体内に入ったのかの証拠の提示はできていなかったため、意図的なドーピングであり資格停止期間を4年間にするべきとと主張しました。

仲裁は、証拠の優越によって意図的でなかったことの証明はされていると判断しました。
違反者がトレンボロンを摂取する動機を欠くことが客観的に示されたことに加えて、違反者の検査後・検査結果通知後の言動や、違反者が多大な労力と費用をかけて体内侵入経路を解明するための分析調査を実施したことを総合的に考慮して、JADAの請求は棄却され、資格停止期間はパネルの決定通り2年間となりました。

JADAが争点とした内容②

【競技者の責に帰すべきではない遅延はなかった】
最終の主張・証拠提出日から審理の終結まで、約2ヶ月を要しており、この期間は「大幅な遅延が発生した場合」には該当しないとして、資格停止期間の開始日を2022年6月21日とするべきだと主張しました。

仲裁は、資格停止期間の開始日を遡及させた本件規律パネルの決定を覆す理由はないと判断しました。
違反者の責めに帰すべきでない遅延ではない根拠の提示は一切なく、実際に主張・証拠の提示から決定まで約2ヶ月かかっていることから、JADAの請求は棄却され、資格停止期間の開始日はパネルの決定通り2022年5月21日となりました。

※アンチ・ドーピング規程10.13.1「競技者又はその他の人の責めに帰すべきでない遅延」があった場合、検体の採取の日又は直近のその他のアンチ・ドーピング規則違反の発生日のいずれかまで、資格停止期間の開始日を遡及させることができる。

制裁が決まるまで約1年9ヶ月

約1年9ヶ月の間、たくさんの労力と費用をかけて、選手は必死に主張し続けました。
やっと日本アンチ・ドーピング規律パネルによる決定が下されたと思った矢先、JADAから不服申し立てがあり、非常に辛い時期が続いたとコメントされていました。

ドーピングはもちろんいけないことではありますが、意図的でないドーピングであったとしても、その証拠が十分でないとJADAより判断された場合、JADAより不服申し立てをされてしまいます。

ドーピングをしないことはもちろん大切ですが、もしなってしまった際に備えることも、大切なアンチ・ドーピング活動です。